サーチエンジン(2008)



初演場所:山手ゲーテ座 再演場所:川崎市民ミュージアム
初演ピアニスト:大井浩明 再演ピアニスト:岡野勇仁
検索、曲目読み上げ、シュレッダー:安野太郎、鶴見幸代、馬場省吾、羽山進一 検索、曲目読み上げ、シュレッダー:安野太郎、鶴見幸代、馬場省吾、羽山進一


 「サーチエンジン」は安野が考案し、方法マシンというグループによって実現されたピアノ・コンサートの企画です。ピアノ曲の楽譜を検索エンジン(Googleを使用)によって検索し、ヒットした楽曲の楽譜ファイルを検索順位が高い順に印刷し、初見能力を持つピアニストによって片っ端から演奏していくコンサートです。

 このコンサートは、4人のパフォーマーと1人のピアニストによって、検索→プリントアウト→曲名及び作曲者の読み上げ→演奏→演奏された楽譜をシュレッダーにかける という一連の手順を全てステージ上で公開する形で繰り返し、約2時間でコンサートが終了するという形式で行われます。ピアニストは、初見技術が卓越していることは当然で、その上でさらに人前でのコンサートに耐えうる音楽を作り上げる演奏が可能な人物である必要があります。

 従来のコンサートで演奏される曲目は、そのコンサートの目的に応じて企画者や演奏家がその目的と合う曲目を、彼らの経験と伝統(ピアノ音楽の)に裏付けられた形で選ぶことが一般的です。「サーチエンジン」では曲目の選定という特権的な立場を情報化社会の象徴である検索エンジンに譲り、人間の経験や伝統を、上からでも下からでもない別の形で音楽の場に反映させるコンサートを実現することが目的です。音楽のある要素を作家ではない別のものに委ねるという意味ではジョン・ケージのチャンスオペレーションによる試みが挙げられますが、「サーチエンジン」は曲目が偶然に選ばれるわけではなく、あるグローバル企業(Google社)が設計したアルゴリズムによって選ばれます。一種の人気投票に近い形であると捉えられますが、一般的な人気投票のように、投票できる人が限定的な範囲でなく、また意志を持った投票でもありません。

 検索エンジンは情報化社会を象徴するキーワードの一つです。情報端末を持つ者が検索エンジンを使わずに情報収集するということはありえません。検索エンジンの検索アルゴリズムには、日々我々がアクセスし続けているネット上での行動が反映されるように設計されています。検索エンジンは我々の知の基盤にさえなっているのです。

 これらのことからデジタルテクノロジーに囲まれた社会、日々人々が検索エンジンで検索を重ねるこの社会における「音楽のあり方」をこの試みを通して批判的に考えるという意図がこの企画にあります。


以下に参考としてGoogleのwebサイト上のテキスト「Google が掲げる 10 の事実」から抜粋します。

https://www.google.co.jp/about/company/philosophy/

4.ウェブ上の民主主義は機能します。

Google 検索が機能するのは、どのサイトのコンテンツが重要かを判断するうえで、膨大なユーザーがウェブサイトに張ったリンクを基準としているからです。Google では、200 以上の要素と、PageRank™ アルゴリズムをはじめとするさまざまな技術を使用して、各ウェブページの重要性を評価しています。PageRank のアルゴリズムでは、ページ間のリンクを「投票」と解釈し、どのサイトが他のページから最高の情報源として投票されているかを分析します。この手法なら、新しいサイトが増えるたびに情報源と投票数が増えるため、ウェブが拡大するにつれて効果も高まります。また Google では、多くのプログラマーの力の結集によって技術革新が進むオープンソース ソフトウェア開発にも力を入れています。