音楽映画2008

音楽映画について

音楽映画とは、作曲家・安野太郎が2007年から続けている声と映像の為の音楽である。作曲家は映像を撮影し、編集することによって作曲を行い、作曲された映像に映っている事柄を言葉にし、その言葉を声に出してパフォーマンスすること(リアライゼーション)を演奏と呼ぶ。

音楽映画紹介ビデオ

2008年9月に制作した音楽映画紹介ビデオ

音楽映画の歩み

『音楽映画』はこれまで5つの作品が作られており、様々なアップデートを経て現在にいたる。 ここではこれまでの5つ作品を振り返り、音楽映画の歩みを示していく。

音楽映画・第一番『山手線』



音楽映画・第一番『山手線』は2006年12月に制作され、2007年1月に発表された作品である。作家が山手線の全ての駅をカメラを持って撮影して回り、自身で編集を行い、声は自身の声の多重録音(計15回)として映像のサウンドトラックに固定させることによって発表された作品である。『音楽映画』という名前から想像される様に、映画音楽という言葉から連想される音楽と映像の関係を反転させることによる新しい音楽を試みたのである。

音楽映画・第二番『三宅島』


音楽映画・第二番『三宅島』は、2007年7月に発表された。撮影・編集の基本的なアプローチは、第一番『山手線』から特に変わっていないが第二番では、声によるリアライゼーションを複数の人間の声で行った。それによって一人の声による個人的な世界の音楽映画から、複数の声による多様な世界の音楽映画になったのである。また、声のリアライゼーションを録音ではなく、舞台上で映像の上映と同時に行う演奏として発表された最初の作品でもある。
(後に音声を映像のサウンドトラックに固定したレコーディングヴァージョンも制作された)
音楽映画・第三番『名古屋』



音楽映画・第三番『名古屋』は、これまでの作曲のアプローチとは違う。第三番は第二番のように合唱ではなく、再び一人の声による作品である。一人の声による作品ではあるが、リアルタイムの声のサンプリングによる多重録音を行っている。よって舞台で発表される作品である。映像の編集は、リアルタイム多重録音システムの特徴を生かした編集のしかたを行っており、同じカットの映像がくるたびに演奏者はあらたに映像を言葉にするが、過去のカットに録音された声がそれに重なる。
音楽映画・第四番『横浜』



音楽映画・第四番『横浜』は、これまでで最大の人数で行った音楽映画であり、総勢17人による作品である。とにかく人を多くしたため、言葉は意味を失うすれすれだった。映像の編集は山手線や、三宅島のようなスポットに関連した編集のしかたでもなく、名古屋のようにシステムを生かした編集でもない。繰り返しを多用する自由な編集を行った。またライブでしか実現していないが、初演の場所である創造空間9001でしかできない仕掛けも存在した。ガラスばりの入り口の壁を生かし、そこから見える外の風景(映像でない)のに対して言語化を行い音楽映画のアプローチを試みたのである。
音楽映画・第五番『大垣』
音楽映画・第五番『大垣』からは技術革新の流れにのり、これまでのSDレベル(640×480)の解像度の映像からHDレベル(1920×1080)の解像度の映像で行った。より高精細にものが見えた方が良いと考えたからだ、高解像度を突き詰めると、結局映像ではなく、実体のある現実の世界の目に見えたものを言語化するようなパフォーマンスの方が良いという結論になってしまいそうではあるが、私はそのように考えていなく、フレームによって切り取られた世界があってこその『音楽映画』だと感じている。(音楽映画・第四番で見せた試みに現実世界の音楽映画はあるが)フレームによって切り取られた世界があり、それを編集することができてこその作曲だと考えている。